JSここメン | 公益社団法人 全国老人福祉施設協議会

「今の仕事を今後もやっていけるかどうか心配です」

こんにちは、産業医の得津です。

 

 

「今の仕事に就いたものの自分はこの仕事に向いていないのではないか」と言う相談をいただくことがあります。入職してから数年と言う若い方からの相談のケースをもとにこの悩みについて考えてみましょう。

 

 

Kさん(仮名)は「今の仕事にはあまりやりがいを感じないし将来もこの仕事を何十年もやり続けられるのか、ということに漠然とした不安を感じながら日々仕事をしています。」といいます。

 

 

ここで大切になるのは、将来のことへの漠然とした不安より、現在どのようなことが不安に思っているのかに注意を向けることです。今の仕事があっているかどうかは経験も少ないことですし、まだ確かなことは言えません。

 

 

それに、今の仕事の環境が今後どうなっていくのか言うのは誰にも予想できませんから、わからない将来のことに対して今不安を感じていても、その不安が消える事は決してありません。そのことばかりが頭の中で自分自身のストレスの原因を作り出してしまうことになります。ですから、あくまでも現在の心理的負担がどこにあるかを考えることが重要となるのです。

 

 

「今やっている仕事のどのようなところが合わないと感じるところですか」と尋ねると、「日々やっていることがあまり評価されていない気がするし、自分がこの仕事をしている意味はあるんだろうか、何のためにこの仕事をしているんだろうと考えることがある。」とのことでした。

 

 

確かに仕事をしていても、評価されたり、日常的に褒められるような職場環境ばかりでは無いかもしれません。実際Kさんの上司は厳しい方で、間違っているところばかり強く指導するような方とのことです。

 

 

ご利用者の命を預かる職場ですので適度な緊張感は必要かと思われますが、この仕事をし始めてまだ数年しか経っていないKさんは、経験や知識が不足する事は当たり前ですから、毎日のように厳しく指導されてしまうということが続いていました。そのような環境では確かに日々のやりがいが感じられなくなってくることも想像できます。

 

 

このように、Kさんが「仕事があっていないかもしれない」と考えることは、「思ったよりも周囲から評価される機会が少ない」ことが原因だとわかってきました。確かに頑張ったことについて褒められたり評価されたりすることはモチベーションの1つとなります。しかし、周りからどう思われているかということが、自分自身への唯一の評価基準になっていることは危険を伴います。どのような人と働くのか、どのような条件下で仕事をするのかという事は、自分にはどうしようもない部分があるからです。

 

 

ですから、「こんなにがんばっているのにわかってくれない」「できる仕事が増えているのに褒められない」というところでストレスを感じることは、周囲の環境に自分の精神状態を大きく左右されてしまうのです。

 

 

周りから褒められないからといって、自分を褒めずにいる事はよくありません。どれだけ頑張ったのか、どれだけ難しいことをうまくやったのか等は、最終的には自分自身でしか解りません。逆に言うとどれだけサボっているかと言うことも自分自身にしかわからないのです。仕事をしっかりしたかどうかと言う事は自分が一番よく知っています。ですから、今、目の前にある環境や条件で自分なりに最善を尽くし、自分自身を適切に評価することが大切です。

 

 

Kさんの場合、その厳しい上司に褒められるためだけに仕事をしているのでしょうか?仕事をする意味はそれだけではないはずです。上司との関係性を良くすることで、自分に足りない知識や経験をサポートしてもらったり、指導してもらったりすることは確かに重要ですが、自分がどれだけ頑張ってもできないことに対して厳しくしか接してくれない上司に対して関係性を良好にする事は難しいといえます。

 

 

またKさんは「自分の後輩はごますりがうまくて、実際は大したことをしていないのに上司のご機嫌ばかりをとっている。自分との扱いに明らかに差があることがストレスになっている。」といいます。

 

 

ここでも同じようなことがいえます。後輩がずる賢く評価を受けていることはあなたと直接関係があることでしょうか?その後輩がどのような評価を受けているからといって、自分の自分自身への評価を変える必要は無いのです。

 

 

確かに愛嬌があったり上司に取り入るのが上手い人がいます。しかし人間の能力には様々な幅がありますし、得意不得意というものは必ず存在するのです。それぞれが持っている能力を生かして仕事をしていくと言うのは自然なことですから、Kさんがそれに対してずるいと言う評価を一方的に下すのもあまり意味がないことなのです。

 

 

このように人からどう思われているかと言うことを気にしすぎると、自分がコントロールできないような環境や状況によって自分の精神状態が大きく左右されてしまい、その結果、精神状態が不安定になることがあります。

 

 

自分への本当の評価は自分自身が行う、ということを基本にして日々の仕事を捉えてみてはいかがでしょうか。