こんにちは、産業医の得津です。
皆さんは日記をつけているでしょうか。日記をつけようとしていたけれども意味が見いだせずに辞めてしまった方も多いのではないでしょうか。
「日記なんてそんなものを記録して何になるんだろう」、「手間ばかりかかってどうせあとから見直すことなんて無いんじゃないか」と疑問に思う方もいらっしゃるかも知れません。もちろん、日記には大事なことを書き留めたり、日々を振り返ることによって時間の使い方を管理するという機能もあります。しかし、ストレス対策という点では日記というのは「つけること自体」にも意味があるのです。
ストレスが生じるときは、身の回りに起こる様々な出来事をストレス要因と評価して、その反応として不安やいらいらした気持ちを感じるということを以前お話しました。このときに、心配や苛立ちという気持ちを感じるだけではストレスに心を支配されてしまいます。
不安なことを考えているとますます心配になってしまいますし、いらいらする気分だと攻撃的なことが次々と頭に上ってきてしまい、大きな負担となってしまいます。
このような状態に陥らないために大切なのは、ストレスを感じるときに自分自身の気持ちや、それが生じたときに自分がおかれた状況を客観的に見るような視点です。ストレスを対処する大切な方法の一つにセルフモニタリングがあります。この方法はその名の通り、自分で自分自身をモニタリング(観察)するというものです。
これによって、もし自分が過度に自己否定的な考えをしていたり、過度に攻撃的な考えをしていたということに気づくことがでれば、考え方の癖というものの存在を自分なりに認識して、次に似たような出来事が起こったときに気持ちに支配されるのではなく、本来自分が望ましいと思う方向に補正していくことができるのです。
日記を書くという行為は、このセルフモニタリングの機能があると考えられるでしょう。単に気持ちを感じたままにしておくのではなく、それを言葉にして振り返ることで状況や気持ちを客観的に捉えることができます。ですから、日記は単に日々行ったことを記録するというだけではありません。
日記には、その日の出来事に対して自分が何を感じたか、何を学んだかを書くことが大切です。例えば、「8時、電車が遅れた」「12時、事務作業をした」「15時、コンビニでお菓子を買って食べた」という事実があったとします。以下のような気持ちを感じていたとします。
「朝の準備の時間がなくて髪がきれいにまとまらなかった。そのうえ電車も遅れたので職場につく時間も遅くなった。いつも以上に周囲の目が気になった。」
「遅れを取り返そうとなるべく自分だけで解決しようと頑張った。でも作業がはかどらず逆に周りに迷惑をかけてしまった。そのせいで昼休みの時間になっても食事に行くことができなかった。」
「遅れて昼食をとれたが、帰りにコンビニに寄ってスナック菓子を買って、大してお腹は空いていなかったがダイエット中に間食をしてしまった…」
このような気持ちを日記で書いていると、この方の場合、電車が遅れたことをきっかけに過度に周囲の目が気になり、その結果、作業に影響が生じて、間食をしてしまった自分に否定的な評価をしてしまっています。
その結果、負担が生じてますます悪いスパイラルに入っているということがわかるのではないでしょうか。ですから、この方にとっては、不安やいらいらした気持ちや状況を客観的に捉えることで「周囲の目を気にしすぎなのではないか?」と気づくことができたことが今回の日記の効果だといえます。
そして、それに気づき、「周囲の目が気になったが、良く考えると周りの人はあまり気にしていなかったし、むしろ電車が遅れてしまって慌てていた自分を心配してくれていた。気にしすぎだった。」「同僚が気遣って昼休みに誘ってくれたが、自分が頑なになって仕事を続けてしまっていた。明日そのことを謝ろう。」といった気づきを書くことができれば、単に嫌なことを記録しているだけでなく、それを前向きなものとして解釈することができるのです。
このように毎日日記を書くことで、自分を振り返ることを習慣づけることで、日頃から感情に飲み込まれるのではなく客観的に自分を見ることができ、自分のもつ考え方の癖をすみやかに補正し、ストレスに対する抵抗性を身につけることができると考えられるのです。
日記は紙とペンさえあれば始めることができます。翌朝、目覚めたあとにこのようなことを念頭におきながら日記をつけることで前日のことを振り返ってみることをおすすめします。