こんにちは、産業医の得津です。
「このところストレスが多いせいか、疲れてしまって、気分が落ち込み気味です。自分でネットで調べると、うつ病なのではないかと思うのですが、病院に行ったほうがいいでしょうか」
このような相談をよく受けます。もちろんその場ですぐに診断できることはあまりないのですが、まずは、「落ち込んでいたり、興味がなくなったりすることが、毎日続いていますか?」ということをまず確認します。「実は仕事の時だけなんですよね」とか「午後になったら気づいたら元気になっています」ということはしばしばあります。
この場合は、抑うつ症状とうつ病は同じものではないということをご説明します。抑うつ症状というのは誰にでもあることです。例えば仕事で大きなミスをしてしまっただとか、プライベートで何か嫌なことがあったりだとか、そのような時は誰でも落ち込むのが当然です。そして、そのような抑うつ症状は、気晴らしをするなどして数日もすればよくなっていくのが通常です。 このように、誰が見ても理解できるような状況で一時的に気分が落ち込んでいるというのは、抑うつ症状ということが多いのです。
しかし、気分の落ち込みがずっと続いていたり、普通なら気分が落ち込まないような些細なことにも過剰にネガティブに考えてしまったりすることで、行動ができなくなり、仕事や日常生活に支障が出てしまっている場合は、うつ病になりかけているかもしれません。
その場合、加えて次のような症状がないかを確認します。「食欲は減っていませんか?」「眠れない状態にはなっていませんか?」「そわそわしたりイライラしていませんか?」「だるさは感じていませんか?」「自分に価値がないと感じていませんか?」「集中力が低下していませんか?」「死ぬことを考えたりしませんか?」
このような症状がずっと続いている場合は、うつ病になってしまっている可能性があります。忙しい職場や職務上のストレスを感じている場合は、特に睡眠の症状が出ていないかを十分に確認します。睡眠の質が低下すると心や体の疲れが十分に回復できずに、次の日の行動の質が下がってしまい、例えば仕事上でミスを何度も起こしてしまうといったことで新たなストレスを引き起こしてしまうことが考えられます。こうなってしまうと悪循環が起きてしまいますので、そのままにしておくとどんどん悪化してしまうことが多いのです。
以上のことをふまえて、毎日のように気分が落ち込んでいるような状態、特に睡眠に影響が出てしまっているような状態であれば、とにかく早めに専門医にご相談することをおすすめしています。睡眠を改善しなければならない場合は薬が必要になるからです。そして睡眠に関する対策を行うときは専門管理のもと、しっかりと治療をした方が、効果があることは間違いありません。先ほどのような悪循環を早めに断ち切る、例えば睡眠の質を改善することで抑うつ症状の悪化を防ぐことができるかもしれません。
病院に受診するのは人によってはハードルが高く感じるかもしれませんが、早めに受診することが重要であるもうひとつの理由として、 抑うつ症状が強くなってしまうと、これまで行ったことのない病院を探したり、受診したりすることがますます難しくなってしまうことがあります。特にメンタルヘルスを相談する場合は多かれ少なかれ主治医の先生との相性の問題もありますから、行動をする余力が残っているうちに自宅の周辺を中心に、精神科または心療内科を受診することを検討してみてください(その場合あらかじめ電話をして予約を取ることを忘れないようにしてください)。
職場のストレスというのは、仕事の内容や量、人間関係など様々な要因がありますが、他人や組織を変えることは時間がかかることがあります。ですから、まずご自身ができることを優先的にすることで自分自身の健康を守ることを第一に考えることが大切です。
産業医が毎日いる職場ばかりではありませんし、万が一、職場に行けなくなってしまった場合、職場の外に相談できる存在を作っておくということは大きな安心感につながります。受診後はご自身の治療状況等を職場の産業医や管理職に相談することで、 職場における配慮や、根本的なストレス要因に対する具体的な改善につなげてもらいましょう。
とはいっても誰しもがこのような メンタル不調を経験したことがあるわけではありません。メンタル不調をしている時はしばしば考える余力がなくなってしまいます。ご自身だけで考えていても心配ばかりが大きくなってしまうこともありますので、当サイトのカウンセリングまでお気軽にご相談いただきますようお願いします。
参考文献:
The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition