こんにちは、産業医の得津です。
前回は、自分自身の「認知的評価」によってストレスの影響を受けるかどうかという話をしました。それでは、出来事に対してそれをストレスだと認識し、結果としてストレス反応を生じている場合、どのように対処すればよいのでしょうか。心理学者ラザルスは対処方法の種類は大きく分けて4種類あるとしました。今回はそのうち関連性の高い2つを取り上げます。
- 問題焦点型コーピング
- まず説明をするのが問題焦点型コーピングです、これはストレスの要因となっている問題自体に働きかけて解決しようとする対処です。
現実的に解決ができそうな問題が向いていますが、それが大きすぎて対処できない場合は小さく分解することで少しずつ解決していくことができます。当然ですが、すぐに解決ができないような問題はこの対処法を取ることはできません。
例えば、隣の部屋の音がうるさすぎて夜眠ることができないという状況であれば、管理会社に相談することで問題の解決に向けることができるでしょう。
しかしながら、家の近くを通るトラックの音がうるさすぎる場合は、引っ越しなどの大掛かりな対処方法が必要となるので、防音カーテンや防音シートを設置するなどの小さなステップで対処をすることを考える必要があります。
この対処法は、要因を分析し解決に向けて働きかけていく必要があるため、心理的な余裕が十分に残っているときに使うことを検討するのがよいと思われます。
解決が困難にも関わらず無理に解決に取り組むことによって心的な疲労が生じ、解決するための余力が少なくなることによって、さらなるストレス要因を招くことには注意する必要があるでしょう。
例えば、連日の残業にも関わらず対応の遅れに起因する取引先とのトラブルにストレスを感じた場合、そのトラブルを解決しようとして、さらに業務量を増やしてしまうことで疲れがたまり、集中力が低下することでミスが生じてしまい、それがトラブルの状況をより悪化させてしまった、ということなどが考えられます。
また、実はその問題自体がストレスの要因となっているのではなく、別の問題が本当の要因であるといったこともありますので、必ずしも問題自体に注目することだけが対処ではないということを知っておく必要があります。
例えば、顧客の無理なクレームにストレスを感じていると思っていて、クレームの内容を解決すべく様々な対処を試みようとしていても、実はストレスの要因は顧客のクレーム自体ではなく、クレームを受けたことを上司に報告する際に厳しく怒られてしまうということかもしれません。
このような場合は、いくらその時々のクレームの内容に対応していても、上司との関係性を解決しなければ根本的な解決に至ることができない、といったことがあるでしょう。
- 支援探索型コーピングとの組み合わせ
- 次に紹介するのが、支援探索型コーピングです。これは問題焦点型コーピングの一種とも言える関連した対処法です。ストレスの要因となっている問題は、自分あるいは一人で解決しなければならないというわけではありませんよね。誰かにその問題を相談して、その解決に向けて手伝ってもらう、あるいは解決そのものを任せてしまうというのは一つの対処法です。
この2つのコーピングの方法の関係性について例をあげます。例えば、異動直後に前任者の業務を急に任されたような状況では、自分の経験や能力ではその仕事を十分にこなすことができないようなことがあります。
このような場合は任された業務そのものをなんとか解決しようと考えるのは難しいことがあるでしょう。ですからこの際の対処方法としては、問題焦点型コーピングだけではなく、支援探索型コーピングを組み合わせてストレス要因となっている問題にとりかかる必要があるのです。
しかし、十分に上司や周囲との関係性が作れていない場合は、その他の対処の方法をとることができず、業務をこなそうとしますがそのストレスでメンタルヘルス不調に至ってしまうようなことがあります。
- 管理者としてできること
そのような状況を防ぐためにも、管理者としては、業務の遂行状況を相談できるような関係性を作り、日々の業務についてきめ細かに確認できるような状況にしておき、場合によっては担当業務を配慮するなどの調整を図る必要があるでしょう。
ストレスに強い組織を作るにあたっては、問題解決がしやすいような状況を作っておくだけでなく、個々人がストレスを抱え込みそうなときには支援探索型コーピングで対処することができるよう、やはりコミュニケーションを意識的に取っておき相談しやすいような環境を作っておく必要があるのです。
参考文献:
Folkman, Susan; Moskowitz, Judith Tedlie (February 2004). "Coping: Pitfalls and Promise". Annual Review of Psychology. 55 (1): 745–74.