こんにちは。産業医の得津です。
ストレス反応は外敵に立ち向かうために必要なものだったけれども、その影響が長期間続くことで心や身体の病気になってしまうかも知れないということをお話しました。
2019年の厚生労働省の調査(1)では、日常生活で悩みやストレスがあるかという質問に対して47.9%の人が「ある」と答えています。また、気分障害や不安障害といった状態にまで達していると考えられる人の割合は10.3%にも上り、どちらも年齢別では概ね30歳代から40歳代にピークがみられます。このように多くの方を悩ましているストレスですが、そのようなストレスを引き起こす要因はどのようなものがあるのでしょうか。
意外に思われるかもしれませんが、ネガティブな出来事だけでなくポジティブな出来事もストレスの要因になると言われています。離婚や、事故、失業といったことがストレスとなることは疑いようがありませんが、結婚や、妊娠、転居といったことがストレスになるというのです。
この考え方は、精神科医のホームズとレイが、1967年に提唱した「社会的再適応評価尺度」によって世の中に広まりました。これによると、結婚は失業よりも、妊娠は、親友の死よりも、日常的な生活に回復するまでの大きな心的エネルギーを要すると言われています。
具体的には、2,500人の船員を対象にした調査結果にもとづいて、配偶者の死を100として、結婚は50、妊娠は40、親友の死は37、といった数字で人生における出来事のストレスとしての影響の大きさを定めたのです。これらの出来事は時期が重なることもあるでしょうが、この場合は足し合わせることによって全体のリスクを見積もることができます。これが150を超えると精神的な疾患を発症するリスクが高まるとされました。
つまり、その他、就職活動を終えて晴れて社会人として仕事を始めたといった出来事や、自分が希望していた職場に転職をすることができたといった出来事の後にも、生活スタイルの変化とともに、予想もしていなかった心的ストレスが生じてしまうことがしばしばあると言えるのです。
先程の厚生労働省の調査において、30歳から40歳代のストレスが大きくなっている理由は、出産や子育てによる生活面での変化や、管理職となって業務内容と責任が大きく変わってくるような時期にもなっており、また子どもも進学するなどして次々と新しい出来事が起こります。これらの出来事が連続的に起きることによってストレス要因が増えがちとなっていることが考えられます。
出産や新居など喜ばしい出来事が起きたあとは、気づかない間にストレスが溜まっているかもしれません。そういったときにさらなるストレス要因が重なると、良い出来事がストレスになっているという認識がない場合は、思いもよらぬ健康影響が生じる恐れもあります。今回お話したように、「喜ばしい出来事でもストレスになっているかもしれない」ということをぜひ頭に入れて頂いて、万が一の際も早い対処に繋げて頂ければと思います。
参考文献
(1)厚生労働省 2019年国民生活基礎調査