JSここメン | 公益社団法人 全国老人福祉施設協議会

ストレスを活用するには

産業医の得津です。

 


何かと悪者にされがちなストレスですが、実は健康に良い影響を与えるストレスもある と聞いたら驚くでしょうか。確かに、ストレスはメンタル不調や心身症の原因となるだけでなく高血圧などによって心臓病を引き起こしたり、認知症などの原因になるとも言われています。

 

 

しかし、Kellerらが1998年からアメリカで行った大規模な研究では、強いストレスがあったにも関わらず死亡リスクが増えた人とそうではない人がいるということがわかりました。それどころか、強いストレスがない人達よりも健康を維持できるような人達がいました。 これらの、強いストレスがあっても健康維持することができていた人達に共通していたことは、「ストレスに対する考え方の違い」 だったといわれています。

 

 

ストレスに対する考え方の違いというのは、「ストレスというのは体に悪いものである」といったようにストレスをネガティブなものとして考えるか、 「ストレスは自分にとって大切だ」といったようにストレスをポジティブなものとして考える かという違いです。

 

 

ストレスへのとらえ方の違いによって、なぜこのような違いが生じるのかということについては詳しく分かっていないようですが、ストレスに反応するホルモンのバランスが影響していると言われているようです。 逆に言うとストレスに対して前向きな考え方をしていればホルモンのバランスが大きく崩れることなく体に不調をきたさない ということになります。

 

 

以前もお話ししたことですが、目の前で起きる現象そのものは良いものでも悪いものでもなく、それを問題と解釈する時点でストレスを感じます。この時にストレスを感じる理由は、一時的に判断力を高めたり身体能力を発揮したりすることによって目の前の問題を解決しやすくするためです。

 

 

ですから、うまくストレスの力を使うことによって目の前の問題を解決していくことができる といえるのです。むしろ何もストレスを感じないということは、ドキドキするシーンのない映画と同じように、退屈だったり生きがいを感じにくかったりするのではないでしょうか。だからこそ、何もストレスがなかった人に比べてストレスを良いものと捉えて活用することができた人の健康のリスクが低かったのかもしれません。

 

 

このようにストレスを前向きに捉えるには、 自分が今感じているストレスをどのように活用するかということを意識することが大切です。 例えば、緊張しているのであれば、「この緊張感によって自分はしっかりと集中することができる」、悲しいことがあるのであれば「これを乗り切ることによって人として成長することができる」 、不安なことが続いているのであれば「この不安の原因がどこにあるかということをつきとめて解決することができれば一歩前進することができる」と考えることはできないでしょうか。そしてストレスが多い状況そのものも、「ストレスにうまく対処してストレスを活用する方法を自分なりに身につけるためのチャンスだ」という風に捉えることができないでしょうか。

 

 

そう考えると、一見避けようとしがちなストレスですが、 避けられることばかりではありませんし、避けようとすることよりもむしろ、それを活かしてやろうと考えることができれば、心理的な負担は今よりも小さくすることができるのではないでしょうか。

 

 

もちろんそのような考え方をするにも心理的な余裕は必要ですので、あくまでもこのような考え方の切り替えはストレスによるメンタル不調を予防する考え方です。そのためには、しっかりと睡眠をとってバランスのとれた食事をするといった基本的な生活習慣を整えるということが何よりも大切ということはこれまでもお話ししてきました。

 

 

「ストレスを感じないようにする」ではなく「ストレスの力を活用する」という考え方をぜひとも試してみてください。