こんにちは、産業医の得津です。
仕事でのストレス要因にはどういったものがあるでしょうか。任されている仕事の量が多すぎて定時までにその仕事を終えることができずに残業が長引いてしまう。上司や同僚に良く思われていなかったり、自分の考えをうまく伝えることができないために人間関係に悩んでいる。自分が感染してしまうのではないか、そのせいで誰かを感染させてしまうのではないかという不安が強い。責任が大きかったり、取り返しのつかないミスをしてしまわないかという不安が強い、など人によってその要因は様々です。
しかし、そのような様々な悩みの根本的な部分はどこにあるでしょうか。 仕事の負荷が大きすぎるということは、そもそも自分ができる仕事の量よりも多いことをしなければならない状況になっているといえます。
人間関係についても、初対面から関係性が悪かったということはあまりないと思います。おそらく、仕事上のことがきっかけで徐々に関係が悪くなってしまったのではないでしょうか。
ミスをあまりにも恐れてしまうのは、これまで慣れない仕事を任されてミスを何度も起こしてしまったり、余裕がない状態で仕事をせざるを得ないためにミスが出やすい状況になっているといったことは考えられないでしょうか。
このようなケースで共通するのは、本来こなせる以上の能力を働かせなければならない状態がストレス要因になっている と言えないでしょうか。つまり、仕事上のストレス要因とは、「仕事としてやらなければならないこと」と「実際できること」とのギャップが大きすぎるときに生じるもの と考えられます。
このギャップがあることから、仕事の時間は長引いてしまいますし、精神的な負担も大きくなります。余裕もなくなりますからコミュニケーションに問題が起きることもあるでしょう。本来できること以上のことをしているわけですからミスも起きてしまいます。そして、ミスが起きるとさらに仕事の効率が悪くなったり、さらなる人間関係の悪化に繋がるなど悪循環が起きる のです。
もちろん自分ができること以上のことをやらなければならないことはあります。 ただそれが長期化すると健康に悪い影響を与えてしまいます。動物が森の中で天敵に出会った時にストレスの力で一時的に瞬発力を働かせてその場を乗り切ることができる、というたとえ話を以前しました。ただ、これはあくまでも一時的な頑張りや負担を乗り越えるために備わっている性質です。ですから、そもそも人間の心は長い間ストレスにさらされることに耐えるようにはできていないのです。
ですから職場のストレス要因を改善させるためには、「やらなければならないこと」と「実際にできること」とのギャップを小さくしていかなければならないのです。本来、一人一人の向き不向き、やり方や能力は違っているはずです。同じことが同じような負荷でできるわけではありません。ですから、仕事の内容とその人の性質の組み合わせによっては、このようなギャップが大きくなるということがあるのです。
このギャップが大きすぎてしまうことで、メンタルに不調をきたして更にストレス要因が大きくなってしまうということがありますから、その場合は一時的にそのギャップを小さくすることでそれ以上メンタルの状態が悪くならないようにしなければなりません。その1つが就業上の配慮です。 あまりに体調が悪すぎて、仕事を続けながら回復するのが難しい場合は休職も検討する必要があるでしょう。
それでは、このようなギャップが大きくなってしまう状態を予防するためにはどのように考えると良いでしょうか。それは、「できる以上のことをやり続けない」、つまり無理をしない。そして、「できる以上のことをさせない」、つまり無理をさせないということです。当たり前のことのように思えますが、様々な問題の根本的なところがここから始まる以上は、無理をして仕事をしなければならない状態をどうにかして改善しなければなりません。
そのためには、何ごともまずは相談から始まります。任された仕事を確実にする自信がない、仕事の仕方がよく分かっていない状態でやっている、 仕事の悩みを抱えたまま共有できずにいる、トラブルが起きたのに全て自分で解決しようとしている。このような状態は無理をして仕事をしてしまう状態を引き起こしかねません。 そうなる前に相談をして状況を改善させましょう。
管理職の方は職員が無理をしている状況に陥っていないかを日々気にかける必要があります。仕事の結果だけで判断せず、そのプロセスに注目をする必要がありますし、相談をしやすい雰囲気を作ることで、大きなミスを減らすこともできるでしょう。もちろんそのためにはそういった時間を割く必要はありますが、このような取り組みをすることで結果的に全体の業務の効率化につなげることができるのではないでしょうか。