こんにちは、産業医の得津です。
メンタルの不調というのは周りから意外に気づかれにくいと、前にもお話ししました。本当は気持ちが落ち込んでいたり、辛い気持ちになっていても、無理をして元気であるように振る舞う人が多いですし、元気そうに振る舞わなければならないと考える人が多いのです。
もちろん辛い時こそ笑顔を作ったり笑ったりすることで、元気が出てくることもあるかと思います。ポジティブな表情をしていると、ポジティブな感情が湧いてくるというのも事実です。
ただ、それが度を過ぎると逆効果となってしまうことがあります。自分の心がけとして笑顔を作るのではなく、他人や職場に迷惑をかけたくない、心配をかけたくないという思いであまりにも周囲に対して気を遣いすぎた結果、無理に元気に振る舞い続けていると、様々なデメリットが出てきます。
まず、元気がないのに元気そうに振る舞うということは、大きなストレスを伴うということです。本当は元気がなかったり意欲がわかなくて、することができないようなことを、しようとしているわけですから、心身に負担が生じるのは当たり前です。
そういった状況を長く続けると、自分の心が不調であるかどうかにかかわらず、負担をかけてしまうことが習慣となってしまいます。そうすることで、自分自身の心の不調にも鈍感になってしまうかもしれません。
次に、周りの方は「心が不調」であるということに、気がつきにくいということです。メンタルヘルスの不調というのはそもそも気づかれにくいのですが、元気に振る舞うことで周りの方はあなたの不調に、さらに気づきにくい状況を作ってしまうことになります。
周囲のサポートが必要な状態では、周りの方に自分の体調を知ってもらったほうが、体調を安定させるよう配慮しやすいのです。こうしたことがうまくいかないと、周囲にとっては「急に体調が悪くなった」ように見えてしまいます。
本当は大丈夫ではないのに、口癖のように「大丈夫です」と返事をしてしまったり、本当はその仕事をできる自信がないのに「大丈夫です」といって、無理をしてしまうということはないでしょうか。
つらいときには「つらい」という表情をしてよいのです。本来、誰しも気分には多少の波があるでしょうし、体調や生活環境などによっても仕事上の日々のコンディションは違ってきます。それにもかかわらず、そのような心の変化に反した振る舞いをすることは、ストレスとなって心に負担をかけてしまいます。
ですから、疲れていたり元気がなかった場合は、そういった気持ちを抑え込むのではなく、あくまでも自分の気持ちには、その時々で向き合うことが大切です。「自分はいま疲れている」、「自分はいま元気がない」ということに気づきましょう。
そして、その要因がなんなのかについて考えつつも、心にそれ以上の負担をかけすぎないように解釈のしかたを変えたり、ストレス要因に対処するといったことで、自分自身の振る舞いの癖を変えていくことができます。
もちろん、心に余裕がなくなればなるほど、そのように客観的な視点を持つことが難しくなってしまいます。ですから、些細な気持ちの変化にも早い段階で心の目を向けることが大切です。そうすれば、無理をして作り笑顔をするのではなく、むしろポジティブな気持ちで自然な笑顔を作ることができるようになるのではないでしょうか。