こんにちは、産業医の得津です。
職場における人間関係に関する相談が多数寄せられています。 良い人間関係を作るには良いコミュニケーションを日頃から心がけることが欠かせません。 しかし良いコミュニケーションが何なのかということを学ぶ機会は意外にそう多くないのかもしれません。
今回は自分の意見を相手に伝える時によく用いられる方法として、「アサーティブ」なコミュニケーションをご紹介したいと思います。 「アサーティブ」とは何かというと、自分の意見を相手に伝える時に、攻撃的になりすぎず、自分を主張しなさすぎることもなく、自分や他者の両方を尊重し自己表現をするという時の考え方のことです。
今回はアサーティブなコミュニケーションを心がけるために知っておくと便利な「DESC法」をご紹介します。 全体的な流れとしては、客観的に事実を話し(Describe)、自分の気持ちを表現し(Express)、具体的な行動を提案し(Sepecify)、その行動の結果がどうなるかを伝える(Consequences)という順番で意見を伝えます。
具体的に「仕事を手伝ってほしい人にどのように自分の意見を伝えるか」という状況で説明してみます。
まず、Describe(記述する)です。はじめに客観的な事実を言います。あくまでも事実だけということに注意をしてください。「この前のあの仕事は私が全てやりました。結局、あの日は9時まで残業をしたんです。」というようなことを言います。
ここで注意しなければならないのは、このような客観的な事実を言うだけで、相手に意見が伝わると思ってしまうことがあるかと思います。しかしそれは本当の意味で意見を伝えたことにはなりません。なぜなら、 事実を言うだけでは自分がそれに対してどう感じて、相手に何をして欲しいのかが正しく伝わるとは限らないからです。
この例では、自分としては仕事を今後手伝ってほしいわけなのですが、相手としては仕事が大変だったことに対して共感してほしいだけなのか、遅くまで仕事したことを褒めて欲しいのか、仕事の負担が大きくならないように上司に掛け合って欲しいのか、よくわからないこともあるからです。
つまり、結局のところ相手が仕事を手伝ってくれるようになるのかどうか分かりません。「自分はこんなに伝えているのに、なんで相手は空気を読んでくれないのだろう。」 と感じることになってしまうのですが、 お互いの認識がそもそもずれているので、うまくコミュニケーションできているとは言えないでしょう。このようなコミュニケーションを続けると、人間関係に問題が起きてしまうことも考えられます。
次に、Express(表現)です。その行動や状況について自分の気持ちは考えようと表現してします。相手がどうこうではなくあくまでも自分がどういう気持ちなのかという点に気をつけてください。「その日はすごく疲れて、家に帰ったら何もできず寝てしまいましたよ。」 などと言います。
この時に相手は初めてはっきりと、自分が自慢したいわけでも、仕事をしているアピールをしたいわけでもなく、 仕事が大変だったということを伝えたいと知ることができるのです。
その次に、Specify(特定)です。具体的に相手に何をして欲しいのかということを提案します。「次からは一緒に手伝って頂けないでしょうか。」などといいます。具体的であることが重要です。「 もうちょっと考えてね。」だとか「周りをしっかり見てください。」のような曖昧な行動にならないように気をつけてください。
最後に、Consequences(結果)です。その行動をとった後にどのような結果になるかを伝えます。「 手分けすればお互いにミスに気付くこともできますし、余裕をもってその仕事ができると思います。」などと言います。これを伝えることで相手は先ほどの行動の提案をすることで、どのような結果が得られるのかということを具体的にイメージすることができるわけです。
この4つの内容を含めることで初めて、自分の意見がしっかりと正確に伝わったことになります。このような内容がないと、どれだけ強い口調で伝えたり、 どれだけ真剣な表情で伝えても、相手が正確にその内容を把握することができないかもしれないので、自分がしてほしい行動をしてくれるとはかぎりません。そうすると、「 あの人は何度も言っているのになんで自分のことを全然聞いてくれないんだろう。」「何を考えているのかわからない。」「気が利かないやつだ。」などという状況になってしまいます。
確かに空気を読むことは大切です。全ての事を説明しなくてもお互いの伝えたいことが理解できるに越したことはありません。しかし、新しい仕事をする機会が増えたり、 世の中の状況の変化が大きい昨今では、お互いの前提としていることが必ずしも一致しないということがかつてよりも増えてきていることは間違いないでしょう。
皆さん一人一人はこれまでの経験や知識が様々ですから、お互いのことを尊重し合うためにも、 相手が空気を読んでくれることを過度に期待せず、しっかりと自分の意見を伝えることで、 コミュニケーションの問題をなくし、良い人間関係を築くことができるのではないでしょうか。今回のDESC法を普段のコミュニケーションに役立てて頂ければ幸いです。
参考文献:
Asserting Yourself-Updated Edition: A Practical Guide For Positive Change, Sharon Anthony Bower