産業医の得津です。
「職場に苦手な人がいるのですが、どうすれば良いでしょうか」という相談をよく受けます。
苦手な人とは関わらなくて良いということが許されるのであれば、何も問題は起きないのですが、仕事上どうしても付き合わなくてはならないからこそ摩擦が生じ、ストレスの要因となります。では、苦手なのだけれども付き合う必要がある場合にどうすれば良いかということを考えてみましょう。
まず当たり前のことですが、人の価値観や解釈というのは人それぞれということです。それぞれ経験してきたことや知識や感覚といったものは人によって違いますから、同じ事実に対してもその反応は違ってきます。
例えば、良かれと思ってやったことに対して指導されたという経験はないでしょうか。自分としては工夫をしたつもりだったのに、余計なことをしてはいけないと上司に言われてしまったとします。マニュアルや規則にはない対応をしたことで工夫をしたわけですから、その工夫は自分にとっては良いことだと思ったのだけども、その上司にとってはいつもと違う対応をしたために良くないことに感じたわけです。
常識的に良い悪いという判断も、おかれた文脈によっても大きく変わります。例えば、かつては教育の場において「大勢の前で叱る」といったことが行われることも、珍しいことではなかったと思います。そのような教育を受けて育ってきた世代にとっては、それはあくまでも教育的な指導だと、考えている方がいるかもしれません。
ですが、そのような指導方法はすでに時代の変化によって意味合いが変わっていて、もはやパワハラとも捉えかねません。しかしながら指導している方はそのことに気づいていないということも、大なり小なりあるのです。管理職の役割を果たすためによかれと思って行ったことが、ハラスメントとして捉えられてしまうこともあるでしょう。
コミュニケーションの方法についても、捉え方の違いが問題になることがあります。 親近感をもって接したつもりが、相手にとっては不快な思いになるかもしれませんし、逆に丁寧に接したつもりが、相手にとってはよそよそしく感じることもあるかもしれません。このような状況では仲が良くなるということはないでしょうし、一緒にいるだけで腹が立ってしまうこともあるでしょう。
このように、相手が自分と全く同じ解釈をしているわけではないということを前提に、コミュニケーションをとる必要があります。そして相手が不快に思っているかどうかといったことも考えながら、コミュニケーションの方法を変えてく必要があります。
そして、そういった調整にも限界があるということを心得ておくことが大切です。相手の顔色を見て調整ばかりしていてはストレスに感じてしまうでしょう。言いたいことが言えなかったり、自分の感情を抑圧し過ぎてしまうのはよくありません。
ですから、職場において様々な考え方を持った人たちと一緒に仕事をするには、何のために一緒に仕事をしているのかということの目的を明確に共有することが大切です。考え方や性格が違っても一緒に仕事をしている以上、共に達成したいことがあると思います。
仕事の目的も共有できて相性もよいというのが最適ですが、苦手な人と仕事をしなければならない場合は、あくまでもその共通の目的のために必要な範囲でコミュニケーションをとればいいわけです。無理に仲良くしようとする必要はありません。時にいらいらすることもあるかと思いますが、そういった場合はあえて強い関わりを持つ必要はありません。お互いのためにも適度な距離感で接しましょう。
苦手な人に気に入られようとか、苦手な人を好きになろうと考える必要もありません。一方で、相手の考え方は理解できないからといって、相手の存在を否定するような考えはよくありません。相手がそう考えているということ自体はあくまでも価値観や解釈の差であるとして認め、尊重することはできると思います。
仕事に関してはしっかりと情報共有をしながら、お互いにとって適度な距離感を保ちつつ、コミュニケーション上の摩擦をなくすことで、人間関係上の無用なストレスをなるべく感じないように仕事をして頂ければと思います。