JSここメン | 公益社団法人 全国老人福祉施設協議会

身近に起こりうるアルコール依存

こんにちは、産業医の得津です。

 

 

皆さんお酒は飲んでいらっしゃるでしょうか。外食でお酒を飲める機会が減っているために家で飲む機会が増えているかもしれません。

 

 

お酒を飲むことでコミュニケーションを円滑にする、食事を豊かなものにするなど、お酒にいい面があることは言うまでもありません。楽しくお酒が飲めるように、今回お話しする依存症についても知っていただければ幸いです。

 

 

アルコールには依存性があるということは皆さんご存知かと思います。実際、アルコールは依存性のある薬物の一種です。お酒はどの程度の依存性かというと、いわゆる覚醒剤と同程度の精神的な依存性があるということが明らかになっています。そう聞くと驚く方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

 

精神的な依存というのは、「お酒を飲まずにはいられない」という状況です。 毎日お酒を飲んでいる方もいらっしゃるかと思います。適量のお酒であれば健康に大きな悪影響はないとされていますが、肝臓の数値が悪かったり、睡眠の質が下がっているのにお酒を飲む頻度を減らせないという場合は注意する必要があります。

 

 

具体的には、健康や生活面への影響がなくなるまで休肝日を作ることが、できるかを考えていただければいいと思います。休肝日を作らなければならないということは分かっていながらも作ることができないと言うことになると、ひょっとしたら精神的な依存が生じ始めているのかもしれません。

 

 

また、飲む量が増えると耐性という現象が出はじめます。耐性とは、同じ量のお酒を飲んでもあまり酔えなくなってくるということです。お酒の量がどんどん増えていくことがあるのはこのためです。さらに、アルコールには身体的な依存性もあります。身体的な依存性とは、アルコールを飲まなければ汗が出てきたり手が震えてしまうといった症状です。

 

 

アルコール依存症の特徴として否認があります。否認というのは、「いざとなったら止められるので問題ない。」「多少問題は出ているかもしれないが大したことはない。」「ストレス解消のためにやむを得ない。」などの 解釈をしてしまうことです。このような状況になってしまうと、自分でアルコール依存の状況を解決するのが難しくなってしまうと思います。

 

 

もちろんお酒を飲むと判断能力が低下します。酔っている状況では健康のことや生活のことなどをふまえて理性的に判断することが難しくなりますので、お酒の量のコントロールが思った以上に難しいのはこのためです。耐性や依存性が悪化してくると、お酒の量がコントロール出来なくなって毎回飲み過ぎてしまうような状態になってしまいます。 ですからこれを改善するにはお酒の量を減らすのではなく、お酒を全く飲まないようにすることが必要なのです。

 

 

このように、お酒の飲み方によっては問題が出てきてしまうのですが、他の違法薬物と違って、お酒は身近なところでいつでも手に入るために、アルコール依存症を生涯で一度でも経験した人は100万人を超えるとの報告もあります。 また、一度アルコール依存症になってしまうと治療期間が長期化してしまうことが多いのも、お酒が身近な存在だからこそです。

 

 

アルコール依存は重症化する前に悪化を予防しなければなりませんが、自分で解決につなげることが難しい病気でもありますので、実際、アルコール依存症の専門治療を受けたことがある人は全体の2割程度に過ぎないと言われています。

 

 

ですから、周囲が飲酒の問題や治療などの解決に向けてのきっかけを作っていく必要があります。例えば、お酒の臭いをさせながら出勤している人はいないでしょうか。 酒が残っているにもかかわらず出勤しているという状況は、飲酒量をコントロールすることができなくなっているということの目安にもなります。

 

 

そのような方が身近にいらっしゃいましたら、まずは面談などを通じて状況確認をします。場合によっては業務上の安全を確保することからアルコールチェッカーなどで検査をしていただくことも考えられます。たびたびお酒を飲んで出勤するようなことがあれば、精神科や心療内科を受診するように勧める必要があるでしょう。症状に応じて専門的な治療を受けられる医療施設を紹介してくれるはずです。

 

 

健康や生活に具体的な問題が生じる程度でなくても、「最近お酒の量が増えているな」と感じた場合は、お酒の量をコントロールすることができているのかどうか改めて確認するようにしてください。そして、お酒の量やお酒を飲む機会が増えているきっかけや原因についても考えるようにしてください。

 

 

お酒を飲むことでストレスを発散するということも時には必要でしょうが、それが続いていると、お酒の量が増えてしまいます。ですから、お酒以外の方法でストレスを発散する方法を考える必要があるでしょう。

 

 

また、ストレスそのものにも働きかけなければならないでしょう。具体的には、これまでのコラムでもお話ししてきた通り、ストレス要因を解決するためにはどうすれば良いかと言う前向きな行動や、解決できない要因に対しては解釈の仕方を変えるといったことが考えられます。