こんにちは、産業医の得津です。
「あの仕事が終わっていないことが気になってしまいます。」
「自分にできるかどうかわからないのが心配です。」
「自分がやったことを注意されるのではないか考えてしまいます。」
ストレスについて相談を受けていると、このような内容が心理的な負担になっているという話をしばしばしてくださいます。ところが、そのような方のなかには、残業時間や仕事をする環境は他の大多数の人と大して変わらないということがあるのです。その方にとって、仕事のことが負担になっていることは間違いないのですが、客観的に見るとなぜそんなに負担を感じているのかがわかりにくいということがあります。
同じような仕事や環境でも、どんどんメンタルが不調になっていく人と、そうでもでない人とは何が違うのでしょうか。もちろん、その方がこれまで行ってきた考えの癖が大きく影響していることは多分に考えられます。
しかし、考えの癖を変えていくには、体の癖を変えるのと同じように時間がかかるものです。また、仕事でストレスを受けているときに、客観的に自分を見つめて考え方の癖を補正することは、ある程度余裕のある状況でなければなりませんから、だれもがすぐにできることではないですし、業務上そのような余裕はないという方も多いでしょう。
では、忙しい仕事でもストレスを慢性的に溜め込まないようにする方法はないのでしょうか。実は、みなさんが毎日されていることをきっかけにできるのです。それは「帰宅」です。忙しい仕事中にストレスはどうしても発生してしまします。それなら、仕事をしていないときにそのストレスをそれ以上増やさず、整理していくことが大切です。
まず残業をしすぎないことが前提となります。厚生労働省が周知しているように、80時間以上の残業は、明らかに健康障害のリスクを高めると言われています。1日4時間も残業していると、回復する時間がとても短くなってしまうからです。
しかし、冒頭の例のように、残業はたくさんしていないけれどもストレスが日々高まっている方は、家に帰っても頭の中で仕事のことばかりを考えてしまい、もう仕事をしていないにも関わらず、本当は感じなくても良いストレスを自分の頭で作ってしまうことで、さらにストレスを溜めてしまうことがあります。
そのような状況は、いわば、頭の中で成果の出ない残業をしているようなものだといえるでしょう。家に帰っても1日4時間以上頭の中で残業をしているとするならば、健康影響が出てもおかしくありません。仕事のことをずっと考えてしまって寝付けないことで実質的な睡眠時間が短くなれば、心身に不調が生じるのも無理もありません。
ですから、そのような癖がついてしまっている方は、「帰宅」をきっかけに頭で仕事のことを考えこまないように切り替えましょう。行動にひもづけて考え方のモードを切り替えることができるので、比較的導入がしやすい方法と言えます。具体的なタイミングは人それぞれです。職場から出た時、電車や車に乗った時、家のドアを開けた時、部屋着に着替えた時、シャワーを浴びた時から、仕事のことを考えないようにしてみましょう。
初めはうまくいかないものですが、重要なのは、「もう仕事は終わっているのに、今、自分は仕事のことを考えたな」ということに気づくということです。家は仕事に比べると頭の外にストレス要因は少ないでしょうから、こうやって客観的に気づくことを身に着けやすい環境と言えます。
このように、頭の中で無意識に残業をしないような習慣を作ることができれば、今度は意識的に頭の中の仕事のスオトレスを整理することもできるようになるでしょう。具体的には、以前お話したような、日記や記録をつけることで、仕事中はうまく整理できなかった頭のなかのモヤモヤを、意識的に作った時間や機会のなかで、客観的に整理していくことができます。
また、現時点では特に慢性的にストレスが溜まっていないという人でも、このような習慣を予め身につけておくことで、ストレスが多い状況になっても心理的な負担を持ち越さず過ごすことができるはずです。
管理職者の方へ、ぜひお願いしたいことがあります。同様の理由で、自宅で何らかの大きなストレス要因が生じてしまっている方は、このような回復の機会を奪われてしまいますので、仕事の負担が変わらないのに大きく体調を崩すことがあります。生活面で負担になるような出来事が起きていないかどうかを把握することは健康管理上大切なことなのですが、誰もが初めからプライベートなことを話せる関係ではありません。
ですから、日頃から仕事以外のことについても気軽に話せる関係性を意識的に作っておく必要があります。新型コロナウイルスの影響で、飲み会をするなど親睦を深める機会は減ってしまっていますので、この点を意識して健康管理のためにも十分なコミュニケーションを取る時間を確保するようにして頂ければと思います。
参考文献:(厚生労働省)過重労働による健康障害を防ぐために